「投機と投資:18世紀イングランド『金融革命』と投資社会の勃興」 坂本優一郎(京都大学人文科学研究所) 本報告では、18世紀のイングランドで、「公信用」が社会にどのように受け止められ、 消化され、その結果何が生じたのか、西洋史の立場からアプローチしてみたい。 ディクスン(P.G.M. Dickson)は、名誉革命後から1750年代の「コンソル」公債の成立 いたる公信用システムの制度的な革新の過程を、「イングランド財政革命」 (The Financial Revolution in England)なる歴史概念として提示した。その後、経済史においては 「イングランド財政革命」によって生み出された資本市場の効率性を数理的に実証する 経済史研究が展開されている。また、こうした市場の存在を前提におく研究に対して、 ゲーム理論を援用しつつ、市場がいかに政治的な要素から構成され創出されたのかを示 すことによって、市場そのものの存在条件を問う新制度派的なアプローチが進められて きた。さらに最近、市場のマイクロな構造の検証が試みられている。このように、研究 史上のおおまかな傾向として、政府と市場をめぐる政治・経済的な観点から、これまで 検討が積み重ねられてきたことが指摘できる。 ここで注目したいのが、政府と市場という枠組みから脱落する「社会」という側面で ある。イングランドにおける公信用制度の革新は、政府には新たな財政(high finance) 手段をもたらす一方で、社会には政府・国家の信用を前提とした証券という資産形態、 証券取引という経済行動、証券取引業者や証券保有者といった経済主体をもたらした。 それでは、かつて目にすることさえなかったこれらは、当時、どのように認識されたの であろうか。 本報告では、証券保有・取引・主体の意味を与える文脈の生成や変質と、文脈におけ る意味の変遷を明らかにしたい。「イングランド財政革命」を「社会」という空間に開 くことによって、あるいは「市場」という空間を「社会」という空間で包摂することに よって、つまり政治・経済的な観点からアプローチされていた対象を社会という観点か らとらえなおす。「信用」にもとづいた「証券」という新たな金融資産やその取引の出現 と普及、主体の登場をめぐる思考や認識の契機、変化、展開から、「公信用」の社会的 な受容を社会史として理解してみたい。 その手がかりとなるのがトマス・モーティマによる「証券取引マニュアル」である。 Every Man His Own Broker なる「ベストセラー」を著したかれの意図と、読者の受容の 1 ありかたとの「ズレ」を見いだす。同時代のパンフレットにみられる言説をできるだけ 網羅的に検証し、モーティマの著作とその「読み」との相互関係を、意味を付与する文 脈との照応関係に位置づける。ここから、政治経済上の革新である「財政革命」が、 「社会」的には「金融革命」として理解できること、「公信用」の取引に起源をもち、 今日にいたるまで拡大し続ける「投資社会」をここに同定できることを示したい。 報告の構成は以下の通りとなる。まず、「イングランド財政革命」にかかわる言説の 立ち上がりと変化を、1690年から1750年代までのスパンをとって概観する。次に、トマ ス・モーティマの著作を手がかりに、証券取引の主体にかかわる諸言説を総合する試み とそのコンテクスト化を整理する。最後に、認識上の「投資社会」の勃興を、1760年代 から1800年代までの「投資」と「投機」をめぐる言説のうちに見出す。なお、引用文中 の下線部、太字、イタリック、番号は、すべて引用者によるものである。 1. 認識・カテゴリ・言説の変化:1690年~1750年代 (1)ブローカー批判の系譜 18世紀のイギリスでは、名誉革命直後の「イングランド財政革命」によって、政府公 債やイングランド銀行などの特権会社株式や社債が、急激に規模を拡大しつつ、歴史上 初めて流通するようになった。これにともない、証券取引に関わる言説も出現した。17 世紀の末から18世紀のはじめにかけてのその典型的な例として、ダニエル・デフォーの ものを挙げることができる。たとえば、外国とのつながりを強調して、「ブローカー」 の行為を問題化する言説がある。 ‘What shall we say then, if a League of Confederacy should be Parliament-Solicitors , and ourStock-Jobbing-Brokers , tow Sort of People equally mercenary and Deceitful.’… ‘Some, and not a few, of our Stock-jobbing-Brokers, are French Men, a little Correspondence between French the Courtand , Jonathan’s Cof fee House , with a C urrency of Louis D’ors, will make strange alterations here, if this method of Buying and Jobbing Elections s h o u ’ d g o o n (D . ’ e f o e , D a nT i ehl e. f r e e - h o l d e r s p l e a a g a i n s t s t o c k - j o b b i n g e l e c t i o n s Parliament men. 2nd. ed., London, 1701, pp. 16, 23). また、同年に出版された別のパンフレットで強調しているように、「人為的な相場の創 2 出」という議論も垣間見られるようになる。 ‘It would puzzle a very good Artist to prove, That their real Stock(if they have any) set loss and gain together, can have varies above 10 per cent. Upon the whole; nor can any Reasons for the rise and fal l of i t be shown, the but Politi ck m anagem ent ofStock-Jobbin the g Brokers ; whereby, according to the Number of Buyers and Sellers, which ’tis also in their Power to m m a n a g e a t whiel l P, rti c e s h a l l d a n c e a t t e n d a n c e o n t h e i r d e s i g n , a n d r i s e a n d please, without any regard to the Intrinsick worth of the Stock,.’ (Defoe, Daniel. The villainy of stock-jobbers detected, and the causes of the late run upon the bank and bankers discovered and considered. London, 1701, p.5). また、「社会悪」としての「ブローカー」の行為は、「project」なる意味深い言葉によ って規定される。 ‘Thus Stock-Jobbing nurs’d Projecting, and Projecting I return has very diligently pimp’d for its Foster-parent, till both are arriv’d to be Publick grievances; and indeed are now almost grown scandalous.’ (Defoe, Daniel. Essays upon several projects: or, effectual ways for advancing the interest of the nation. ... London, 1702, p.30). こうして、証券取引の主体として財政革命の開始直後から現われた「ブローカー」は、 善良な人間を騙す存在として描写されることになる。 ‘ T h i s E x p e r i m e n t i n d e e d m a y t e a c h U ne dv e r sy t ah no dn iens gt M t oa n t h a t f a l l s i n t o t h e C l u t c h e s o f t h e s e m e r c i l e s s M eSnt,o c ak l-lJ’ od b b;’e r s(D e f o e , D a n iTe hl .e a n a t o m y o f E x c h a n g e - A l l e y : o r, a s y s t e m o f s t o c k - j o b b i n g . P r o v i n g t h a t s c a n d a l o u s t r a d e , a s i t i carry'd on, to be knavish in its ... London, 1719, p.11.). この南海泡沫事件直前に上梓されたこのパンフレット The anatomy of Exchange-Alley が、その後の「ブローカー」論の雛形を提供することとなる。 「ブローカー」の行為は、ときに社会悪としてみなされる証券取引の元凶と目された 3 それはそのまま「ジョッバー」にも重ねあわされた。たとえば、その典型的な言説とし て、 ‘To these are added the CityStock-Jobbers, those impudent Varlets, that cheat the Publick and ruin Trade, whose very Life and Being consists in publick Funds an

docDoc Paper_Sakamoto

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